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研究概要(論文出版済みのテーマのみ)



1. 双性イオン液体を利用した植物バイオマスの連続エタノール変換



 草や木、あるいは古紙や割り箸などの植物バイオマスは世界で最も豊富なバイオマスとして知られている。その植物バイオマスの主成分はセルロース・ヘミセルロースといった多糖類と、リグニンといった芳香族ポリマーから構成されている。それらをイオン液体(常温付近で液体の塩)で溶解・分離しその後、酵素や微生物、化学変換を利用して様々な有用マテリアルや次世代エネルギーを効率よく生産していくことが一つの大きな目標となっている。

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 イオン液体を含む全てのバイオマス溶媒は毒性が高い。そのため、バイオマスを溶解、酵素で加水分解した後、微生物で連続的に発酵することができなかった。我々は「カルボン酸系双性イオン液体」を新規に開発し、その微生物に対する毒性は極めて低いことを明らかにしている。これにより、溶解・加水分解・発酵が連続的に一つの容器内で行えることを証明し、大きくエネルギーコストを下げられることを示した。


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関連論文など

1.
K. Kuroda*, H. Satria, K. Miyamura, Y. Tusge, K. Ninomiya, K. Takahashi
Design of Wall-Destructive but Membrane-Compatible Solvents

J. Am. Chem. Soc., 139, 16052-16055 (2017)
Supplementary Cover


2. 1
番の論文について、プレスリリースを行いました。リンクはこちら


3. 1
番の論文について、Chem-Stationのスポットライトリサーチで取り上げていただきました!リンクはこちら


4.
H. Satria, K. Kuroda*, Y. Tsuge, K. Ninomiya, K. Takahashi
Dimethyl sulfoxide enhances both cellulose dissolution ability and biocompatibility of a carboxylate-type liquid zwitterion

New. J. Chem., 42, 13225-13228 (2018)
Front Cover


5. G. Sharma, K. Takahashi, K. Kuroda*
Polar Zwitterion/Saccharide-Based Deep Eutectic Solvents for Cellulose Dissolution

Carbohydr. Polym., 267, 118171 (2021)


6. 5
番の論文について、金沢大学のPaper of Monthに選ばれました。リンクはこちら


7. T. Komori, H. Satria, K. Miyamura, A. Ito, M. Kamiya, A. Sumino, T. Onishi, K. Ninomiya, K. Takahashi, J. L. Anderson, T. Uto*, K. Kuroda*
Essential requirements of biocompatible cellulose solvents

ACS Sustain. Chem. Eng., 9, 11825-11836 (2021)


8. R. Kadokawa, T. Endo, Y. Yasaka, K. Ninomiya, K. Takahashi, K. Kuroda*
Cellulose preferentially dissolved over xylan in ionic liquids through precise anion interaction regulated by bulky cations

ACS Sustain. Chem. Eng., 9, 8686-8691 (2021)
Supplementary Cover


9. F. Jesusa, H. Passos, A. M. Ferreira, K. Kuroda, J. L. Pereira, F. Gonçalves, J. A. P. Coutinho, S. P.M. Ventura*
Zwitterionic compounds are less ecotoxic than their analogous ionic liquid

Green Chem., 23, 3683-3692 (2021)

 




2. ライフサイエンスにおける新規溶媒としての双性イオン液体



 細胞や生体の数十パーセントは水で構成されており、ライフサイエンスにおいては基本的に水を溶媒として用いる。その一方で、細胞を凍結保存する場合や、水に溶けない薬剤・色素を溶解する場合には有機溶媒を利用することもある。ジメチルスルホキシド(DMSO)は、有機溶媒の中では低毒性であることが知られているが、近年ではその毒性が無視できないことも報告されてきている。その一方で、DMSOは長い歴史の中で選択されてきた経緯があり、それに替わる溶媒は存在しないと考えられてきた。
 その一方で、我々が報告した低毒性な双性イオン液体が、DMSOの毒性の問題を解決できるのではないかと考えた。実際に毒性試験を行うと、双性イオン液体の毒性はDMSOよりも低く、ゼブラフィッシュ胚などへも影響を与えなかった。DMSOは細胞の機能(たとえば細胞周期やiPS細胞の分化)にも影響を与えることが知られているが、双性イオン液体は影響を与えなかった。これらの結果より、双性イオン液体がDMSOを超える新規非水溶媒となりうることが示唆された。


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2-1. 凍結保存剤としての双性イオン液体



 精子バンクのように、細胞を凍結保存して長期保存する技術の需要が高まってきている。細胞を凍結保存するためには、DMSOなどの凍結保存剤を添加する必要がある。しかし、既存の凍結保存剤では効率良く凍結保存できない細胞などが数多くあり、新たな凍結保存剤の開発が求められている。我々は、双性イオン液体は新しい凍結保存剤となり得ると考え、細胞の凍結保存を試みた。5 wt%双性イオン液体水溶液を用いてヒト線維芽細胞を凍結保存することができた。このときの凍結保存効率は、市販の凍結保存剤と同等であり、わずかな量の双性イオン液体を水に溶かすだけで高効率に凍結保存が可能な凍結保存剤を作製することができた。この凍結保存剤を最適化することで、これまで凍結保存が難しかった細胞に対しても適用可能であると想定される。
 2022年には、zwitterionがタンパク質の凍結保存剤としても使えることを報告した。

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関連論文など

1.
K. Kuroda*, T. Komori, K. Ishibashi, T. Uto, I. Kobayashi, R. Kadokawa, Y. Kato, K. Ninomiya, K. Takahashi, E. Hirata*
Non-aqueous, zwitterionic solvent as an alternative for dimethyl sulfoxide in the life sciences

Commun. Chem., 3, 163 (2020)
Open Access


3.
Y. Kato, T. Uto, D. Tanaka, K. Ishibashi, A. Kobayashi, M. Hazawa, R. W. Wong, K. Ninomiya, K. Takahashi, E. Hirata*, K. Kuroda*
Synthetic zwitterions as efficient non-permeable cryoprotectants

Commun. Chem., 4, 151 (2021)
Open Access


4.
T. Hirata*, T. Takekiyo*, Y. Yoshimura*, Y. Tokoro, T. Ishizaki, Y. Kizuka, K. Kuroda*
Cryostorage of unstable N-acetylglucosaminyltransferase-V by synthetic zwitterions

RSC Adv., in press (2022)
Open Access



2-2. 難水溶性薬剤の添加溶媒としての双性イオン液体



 難水溶性の薬剤や色素などは数多く存在し、ほとんどの場合DMSOに一度溶解してから培地へと添加される。人体やマウスへ投与する場合には油やエタノールが使われることもある。しかしながら、DMSOやエタノールによる副作用も知られており、それらに代わる溶媒が求められている。双性イオン液体はその役割を担う次世代の溶媒となり得る。例えばこれまでに抗がん剤の一種であるシスプラチンなど10種類以上の薬剤を溶解できることを報告している。
 さらに、DMSOやエタノールにさえ全く溶解しない薬剤もあり、それらに関しては薬効を調べることすら不可能であった。そういった不溶性薬剤の新しい溶媒になることも期待される。

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シスプラチンを水(左)および双性イオン液体水溶液(右)へ添加したときの様子

関連論文

1.
K. Kuroda*, T. Komori, K. Ishibashi, T. Uto, I. Kobayashi, R. Kadokawa, Y. Kato, K. Ninomiya, K. Takahashi, E. Hirata*
Non-aqueous, zwitterionic solvent as an alternative for dimethyl sulfoxide in the life sciences

Commun. Chem., 3, 163 (2020)
Open Access


3. R. Kadokawa, T. Fujie, G. Sharma, K. Ishibashi, K. Ninomiya, K. Takahashi, E. Hirata*, K. Kuroda*
High loading of trimethylglycine promotes aqueous solubility of poorly water-soluble cisplatin

Sci. Rep., 11, 9770 (2021)
Open Access

 




3. 双性イオン液体の安価で簡便な合成



 現在利用している双性イオン液体は非常に高価であり、またその合成法も煩雑である。そのため、原料や合成ルートを工夫することで安価で大量に双性イオンを合成できるように工夫した。

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関連論文

1. G. Sharma, Y. Kato, A. Hachisu, K. Ishibashi, K. Ninomiya, K. Takahashi, E. Hirata, Kosuke Kuroda*
Synthesis of a cellulose dissolving liquid zwitterion from general and low-cost reagents

Cellulose, 29, 3017-3024 (2021)


2. T. Komori, Y. Kato, K. Ishibashi, K. Ninomiya, N. Wada, D. Hirose, K. Takahashi, E. Hirata, K. Kuroda*
Characterization and Application of Carboxylate-type zwitterions synthesized by one-step

J. Ion. Liq., 2, 100027 (2022)

 




4. 薬用植物からの漢方ゲルの直接作製



 漢方の素となる薬用植物を溶かして貧溶媒に滴下するのみで、漢方薬成分を含むゲルを簡便に作製できた。このとき、植物の溶媒はどれも毒性が高く、製薬プロセスには適用できない。そこで、我々がこれまでに開発した低毒性なliquid zwitterionを利用してゲルを作製した。詳細な毒性試験については共同研究募集中です。

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関連論文

1.
C. Kodo, K. Kuroda*, K. Miyazaki, H. Ueda, K. Ninomiya, K. Takahashi
Direct preparation of gels from herbal medicinal plants by using a low toxicity liquid zwitterion

Polym. J., 467-472 (2020)

 




過去のテーマ



”難燃性”かつ”熱可塑性”の植物プラスチックの直接作製



 植物バイオマスの構成高分子であるセルロース・ヘミセルロース・リグニンは、そのままでは膜として利用することができない。しかし、亜リン酸系のイオン液体中でセルロースを加熱するのみで、透明な膜状の紙を作ることができた。さらにその膜は一度火が付いても、発泡性の炭化層を作り、火を消し止める「自己消火性」を持っていることが分かった(関連論文1のSupporting Movie参照)。同様の膜をセルロースのみならず、ヘミセルロースやリグニンからも作製することができた。
 また、セルロースなどの個々の高分子からだけではなく、植物バイオマスそのものからも同様の膜を作製することができた。

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関連論文
1. R. Nishita, K. Kuroda*, S. Ota, T. Endo, S. Suzuki, K. Ninomiya, K. Takahashi
Flame-retardant thermoplastics derived from plant cell wall polymers by single ionic liquid substitution

New. J. Chem., 43, 2057-2064 (2019)

2. R. Nishita, K. Kuroda*, S. Suzuki, K. Ninomiya, K. Takahashi
Flame-retardant plant thermoplastics directly prepared by single ionic liquid substitution

Polym. J., 51, 781–789 (2019)

 




双性イオンへと可逆変換できるイオン液体



 イオン液体は、そのわずかなイオン構造の違いで大きな性質が変化する。例えば、液体/固体、高粘性/低粘性、セルロースを溶解する/しない、などである。そこで我々は、「イオン液体」と、そのアニオンとカチオンが共有結合でつながった「双性イオン」とを可逆的に変換することができれば、イオン液体の性質を大きく変換することができると考えた。今回、動的共有結合をイオン構造に組み込むことで、イオン液体と双性イオンを可逆的に変換できることを新たに報告した。さらにその新規イオン液体は、CO2やN2ガスを吹き込むによってイオン液体の伝導度を大きく変えることができた。この系は可変抵抗として利用することができ、LEDの発光強度を制御することができた。本システムは、これまでの物理的な可変抵抗をミリメートルオーダーまで小さくできるポテンシャルをもつ。
 また、同システムを利用して、水との相溶性を変えることもできた。その結果、CO2やN2ガスを吹き込むによって水と1相/2相を可逆的に変えることができた。

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関連論文
1. K. Kuroda*, Y. Shimada, K. Takahashi
CO2-triggered fine tune of electrical conductivity via tug-of-war between ions

New J. Chem., 42, 15528-15532 (2018)
Front Cover

2. K. Kuroda*, Y. Shimada, K. Takahashi
Hand-holding and releasing between the anion and cation to change their macroscopic behavior in water

Green Energy Envrion., 4, 127-130 (2019)

 




炭素繊維強化プラスチックへ向けたリグニン由来の相溶化剤の開発



 プラスチックと炭素繊維を混ぜることで作製する炭素繊維強化プラスチックは、軽さと強靱さを兼ね備えており、ボーイング787の機体などへ利用が進められている。しかし、汎用プラスチックの一つであるポリプロピレンは炭素繊維と親和性が悪く、相溶化剤の添加が必要となる。これまでは無水マレイン酸ポリプロピレンと呼ばれる相溶化剤が用いられてきたが、我々はバイオマスポリマーの一種、リグニン由来の相溶化剤を開発することができた。リグニン由来相溶化剤は無水マレイン酸ポリプロピレンと同等の性能を示すことがわかった。リグニンはバイオマスポリマーの中でも応用先が少なく、新たな展開が求められていたが、本研究はその一つとなった。

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関連論文
1. H. Sakai, K. Kuroda*(co-first author), S. Muroyama, T. Tsukegi, R. Kakuchi, K. Takada, A. Hata, R. Kojima, T. Ogoshi, M. Omichi, K. Ninomiya, K. Takahashi
Alkylated alkali lignin for compatibilizing agents of carbon fiber reinforced plastics with polypropylene

Polym. J., 50, 281-284 (2018)

2. H. Sakai, K. Kuroda*(co-first author), T. Tsukegi, T. Ogoshi, K. Ninomiya, K. Takahashi*
Butylated lignin as a compatibilizing agent for polypropylene–based carbon fiber-reinforced plastics

Polym. J., 50, 997-1002, (2018)

 




酸性イオン液体を利用したセルロースの加水分解



 酸性の官能基を有するイオン液体とマイクロ波を組み合わせることで、セルロースの高効率な加水分解手法を提案した。この手法は様々なバイオマスに有効であることがわかった。酸性イオン液体をその場で合成することで加水分解効率を飛躍的に向上させられることも発見している。また、疎水性かつ酸性のイオン液体を合成することで不純物を含まないグルコース水溶液を簡便に得られることも発見した。

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関連論文
1. K. Kuroda*, K. Miyamura, H. Satria, K. Takada, K. Ninomiya, K. Takahashi*
Hydrolysis of cellulose using an acidic and hydrophobic ionic liquid, and subsequent separation of glucose aqueous solution from the ionic liquid and 5-(hydroxymethyl)furfural

ACS Sustain. Chem. Eng., 4, 3352-3356 (2016)

2. K. Kuroda, K. Inoue, K. Miyamura, K. Takada, K. Ninomiya, K. Takahashi*
Enhanced Hydrolysis of Lignocellulosic Biomass Assisted by a Combination of Acidic Ionic Liquids and Microwave Heating

J. Chem. Eng. Jpn., 49, 809-813 (2016)


3. H. Satria, K. Kuroda*(co-first author), T. Endo, K. Takada, K. Ninomiya, K. Takahashi*
Efficient hydrolysis of polysaccharides in bagasse by in situ synthesis of an acidic ionic liquid after pretreatment

ACS Sustain. Chem. Eng., 5, 708-713 (2017)


4. K. Kuroda*, K. Inoue, K. Miyamura, K. Takada, K. Ninomiya, K. Takahashi*
Efficient Hydrolysis of Lignocellulose by Acidic Ionic Liquids under Low-Toxic Condition to Microorganisms

Catalysts, 7, 108 (2017)
Open Access






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